「かな」~代表的な切字(2)~

りんご(俳句の作り方)

はじめに

切れと切字のページで、「」「かな」「けり」の三語は、特に強く詠嘆の意が込められる切字の代表格であると述べました。

このページでは、その三つの切字のうち、「かな」の用い方や効果について説明します。

なお、古句には「かな」を漢字で「」と表記している作品が多いのですが、当サイトでは、初心者にもわかりやすいよう、例句の「かな」は全て平仮名で掲載してあります。

どのような語の後ろに「かな」を接続できるか

切字の「かな」は名詞、または活用語(動詞・形容詞・形容動詞・助動詞)の連体形の後ろに接続させることができます。

ただ、俳句においては、名詞に付けることが圧倒的に多いので、初心者は、まずは名詞に「かな」をつける練習をしてください。

後の三句は、いずれも名詞に「かな」が接続しています。

よろこべばしきりに落つる木の実かな
富安風生

夢一つ置き去る旅の桜かな
凡茶

豊年の星見て待てる始発かな
凡茶

上掲の三句のうち、最後の句は季語ではない「始発」の語に「かな」がついていますが、季語以外の語に切字の「かな」をつける場合、その語が季語と同等、あるいは季語以上に作品の印象を左右する中心的な役割を果たす語になっている必要があります。

さて、名詞の後ろに「かな」を置くことに慣れてきたら、活用語の連体形に「かな」を付ける練習に移りましょう。以下の名句が参考になると思います。

●動詞の連体形の後ろに「かな」を接続した俳句の例

鮟鱇あんこうもわが身のごうも煮ゆるかな
久保田万太郎

牡丹雪その夜の妻のにほふかな
石田波郷

●形容詞の連体形の後ろに「かな」を接続した俳句の例

冬の月寂莫せきばくとして高きかな
日野草城

初富士のかなしきまでに遠きかな
山口青邨

なお、稀にですが、名詞、活用語の連体形以外の言葉にも、「かな」が付くことがあります。
例えば、次の蕪村の作品の場合、動詞「愛す」の終止形の後ろに「かな」が置かれています。

二もとの梅に遅速ちそくを愛すかな
蕪村

文法は人々に言葉の用い方を強制するものではなく、人々が用いてきた言葉の中から後の人が発見した秩序、あるいは傾向にすぎません。
ですから、文法の教科書とは異なるこうした例外があるのは、ごく当たり前のことなのです。

ただし、初心者は、「切字のかなは、名詞または活用語の連体形の後ろに置くもの」という基本を、まずはしっかりと身につけるべきでしょう。

俳句のどこに「かな」を置くべきか

「かな」は句末、すなわち一句の一番最後に置くのが基本です。

「かな」という切字を用いると、切れの直後に余韻が生まれ、その余韻はすぐさま大きく膨れ上がります。

ですから、その大いなる余韻の後ろに何らかの言葉をえても、「かな」の前に置いた言葉と一体感が生まれにくく、まとまりのない一句になってしまう可能性が高いのです。

以下の名句においても、「かな」は、句の一番最後に置かれています。

さまざまの事おもひ出す桜かな
芭蕉
注)原句の「さまざま」は、くり返しの記号を用いて表記

野ざらしを心に風のしむ身かな
芭蕉

うら門のひてりでにく日永かな
一茶

どかどかと花の上なる馬ふんかな
一茶

もちろん「かな」を上五や中七に置く例外的な俳句も有るには有ります。例えば次の名句。

寒鯉はしづかなるかなひれを垂れ
水原秋櫻子

有るには有るのですが、初心者は、「かなは句末に置くもの」という意識を持った方がよいでしょう。

切字の「かな」を用いた俳句の形

まずは、次の1~3の句を読み比べてみてください。

1.万緑のはしより摘みし薬味かな
凡茶

2.ダム底に隠田かくしだ眠る螢かな
凡茶

3.きのこ鍋下戸げこも飲んべもなまるかな
凡茶

1と2は、文法的には一句の途中に切れが入らず、句末の「かな」の後ろで初めて句が切れます。

しかし、1の句は意味の上でも切れるところがありませんが、2の句は、中七の後ろに意味上の切れが見られます。つまり、上五および中七の十二字、下五は、それぞれが独立していて、中七の連体形の直後にのようなものが存在しています。

そのため、1と2をあえて散文に改めると、1は、文の最後に句点(。)を一つだけ入れ、途中には入れない方が自然な表現となり、2は、文章の途中と句末の二か所に句点(。)を入れた方が自然な表現になります。次の囲みの部分を読み、確かめてみてください。

【1の句を散文にすると…】
辺り一面を覆う草木の緑の端から、この薬味を摘んできた。

【2の句を散文にすると…】
このダムの底には、かつて沈んだ隠田集落が眠っている。ところで私の目には、ふわふわと飛ぶ螢が映っている。

この節では、初めに、1の句のような “ 文法的にも、意味の上でも、句末で初めて切れる形 ” の「かな」の俳句を紹介します。

次に、2の句のような “ 文法的には句末まで切れないが、中七の後ろに意味上の切れが入る形 ” の「かな」の俳句を紹介します。

もう一つの3の句ですが、これは、上五の「きのこ鍋」の後ろで、文法的にも、意味の上でも、句がしっかりと切られています。そして、句末の「かな」は、動詞「訛る」の連体形に接続しています。

本節の三項目では、このような “ 上五の名詞で一旦切り、活用語の連体形につけた「かな」 で句末を結ぶ形 ” も紹介します。

文法的にも、意味の上でも、句末で初めて切れる形

文法的にも、意味の上でも、途中で一句が切れていない「かな」を用いた名句をいくつか挙げてみます。

石工いしきりのみ冷したる清水かな
蕪村

紫陽花あじさい秋冷しゅうれいいたる信濃かな
杉田久女

とどまればあたりにふゆる蜻蛉とんぼかな
中村汀女

いちまいの皮の包める熟柿じゅくしかな
野見山朱鳥

標準的な形であり、切字の「かな」を用いる俳句の大半はこの形をしています。初心者でもすぐに使える形です。

文法的には句末まで切れないが、中七の後ろに意味上の切れが入る形

次は江戸時代の加舎白雄の句です。

盲児めしいご端居はしい淋しき木槿むくげかな
白雄

この句、文法的には途中で切れていませんが、意味の上では上五・中七と、下五の間に断裂があり、上五・中七に描写された「淋しそうに縁側に腰かけている目の不自由な子供」と、下五に描写された「木槿の花」という別々の事物を取り合わせる作品になっています。

俳句では、中七の最後を活用語の連体形にして下五との文法的なつながりは保たせながらも、意味の上では上五・中七と、切字の「かな」で締めくくる下五とを分断して、独立した両者を並び立たせるような作品の作り方をよくします。
いくつか例を示します。

落ち合うて川の名かはる紅葉かな
大谷句仏

坂下の屋根みな低き落葉かな
室生犀星

夜の雲に噴煙うつる新樹かな
水原秋櫻子

初心者にはやや難しい形であり、筆者もはじめのうちは作句の際にこの形を使いこなすことも、この形の作品を上手に鑑賞することもできませんでした。

いまだしっかり会得したとは言い難いレベルですが、いくつかこの形の俳句をむことができたので紹介します。

米軍機深空みそらへ刺さる田植かな
凡茶

明日より定期船減る時雨しぐれかな
凡茶

上五の名詞で一旦切り、活用語の連体形につけた「かな」 で句末を結ぶ形

次の句を読んでみてください。

豊の秋村名残る駅舎かな

上五の「豊の秋」という名詞の後ろで一旦切れ、最後に「駅舎」という名詞についた切字の「かな」の後ろでもう一度切れていますが、名詞がごろごろと転がっているようで「ブツ切り感」があり、聞き心地の悪い作品に仕上がっています。

これを、動詞「残る」の連体形に「かな」を接続する形に改めてみるとどうでしょう。

豊の秋村名駅に残るかな
凡茶

だいぶ、聞き心地がよくなったと感じます。

俳句には、上のような、上五の名詞の後ろで一旦句を切り、最後に、活用語の連体形につけた「かな」 でしめくくる作品が比較的多く見られます。

この形の名句も多いので、使いこなせるようにしたいものです。
いくつか例を掲げます。

涅槃ねはんの日蝶も海峡渡るかな
加藤かけい

牡丹ぼたん雪その夜の妻のにほふかな
石田波郷

紺絣こんがすり春月重く出でしかな
飯田龍太

初心者には難しい形ですが、会得すると「かな」という切字がかなり使いやすくなってきます。

切字の「かな」を用いて得られる効果

切字の「かな」は、その直後にジワーッとした余韻を醸し出し、それを大きく、かつ、やんわりと膨らませます。
上にも掲げた次の句を見てください。

さまざまの事おもひ出す桜かな
芭蕉

この句を読み終えると、胸にみ込んでくるような優しい余韻を感じませんか。

雲のように咲き満ちる桜の花、その控え目な色、霞のかかった空、さまざまな事を乗り越えて来た人物の静かな心と憂い…
そんなイメージが渾然一体となって、やんわりと頭の中に膨らんできませんか。

この余韻の膨らみこそが、切字「かな」の生み出す最大の効果であると思います。
もし、上の芭蕉の名句から、「かな」を取り払ってしまったらどうなるでしょう。

桜見てさまざまの事おもひ出す
(筆者・凡茶による改作)
 
一句を読み終えた後の余韻があまり膨らむことなく、消えていくのがわかると思います。

もう一句、(拙句ですが)例を見てみましょう。

うそ一行ふみに書き足す炬燵こたつかな
凡茶

この句と、この句から「かな」を取り去った次の句を比較してみて下さい。

炬燵こたつにてふみに書き足すうそ一行

どちらの句が、炬燵の温もり、静かに流れる時間、人物の心の落ち着き等のイメージを膨らませてくれるかは明らかであると思います。

見てきた通り、切字「かな」は、味わい深く、かつ、柔らかい余韻を俳句に与える最高の道具です。
初学の頃から積極的に用いて会得し、自分の俳句をより豊かなものにして下さい。

おわりに

ここまでお読みいただき、ありがとうございました。

実は半年ほどサイトの執筆が出来ず、当記事は久々の投稿になります。

私事ですが、「頑張ることが全ての問題の解決策であり、頑張ることとは、すなわち、自分に無理をかけて限界までやること」と考えてしまう性向があります。そして、実際に若い頃からそのようにして人生を創ってきました。

しかし、サイトの更新を休んでいる間に、「若さは永遠には続かない」という不可避の現実に向き合わなければならない局面に立たされ、少々、考え方を改めなくてはと感じるようになってきました。

「頑張ることは尊いが、頑張り続けるためには、休み上手にもならないと」

最近、そんな風に思うようになりました。

今現在の心境で詠んでみた、切字の「かな」を使った作品を一句紹介させてください。

同じ雲まだ浮いてゐる麦茶かな
凡茶

“ 文法的には句末まで切れないが、中七の後ろに意味上の切れが入る形 ” の「かな」の俳句です。

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