「けり」~代表的な切字(3)~

柿(俳句の作り方)

はじめに

切れと切字のページでは、数多くある切字の中でも、や・かな・けり の三語は、詠嘆の意を特に強く表現できる切字の代表格であると述べました。

このページでは、その三つの切字のうちの「けり」の用い方や効果について詳しく説明していきます。

どのような語の後ろに「けり」を接続できるか

切字の「けり」は活用語、すなわち、動詞、形容詞、形容動詞、助動詞の連用形の後ろに接続します。以下の例を参考にしてみてください。

●動詞の連用形の後ろに「けり」を接続した俳句の例

01.月天心つきてんしん貧しき町を通りけり
蕪村
月天心:天頂の辺りまで上った月

02.大根引だいこひき大根だいこで道を教へけり
一茶
大根引:畑から大根を引き抜く百姓
  
03.作り滝止み照明の残りけり
凡茶
作り滝:人工の滝

●形容詞の連用形の後ろに「けり」を接続した俳句の例

04.赤とんぼ筑波つくばに雲もなかりけり
正岡子規
筑波:筑波山のこと

●形容動詞の連用形の後ろに「けり」を接続した俳句の例

05.琴の音のしづかなりけり震災忌しんさいき
山口青邨
震災忌:関東大震災の起こった九月一日

●助動詞の連用形の後ろに「けり」を接続した俳句の例

06.鶏頭けいとうが立往生たちおうじょうをしたりけり
一茶
立往生=立ったまま息絶えること。ここでは、鶏頭が立ち枯れたことを指す

07.花ちりて木間このまの寺となりにけり
蕪村
木間=木々の間

08.御柱おんばしら御幣おんべを轢ひいて行きにけり
凡茶
御柱:長野県の諏訪大社の御柱祭(おんばしらまつり)の際に、町中を牽ひいて回る巨大な神木
御幣:御柱祭の際に、氏子(祭りの参加者)が手に持つ飾りのついた棒

上の06の「たりけり」の「たり」は完了の助動詞「たり」の連用形、07と08の「にけり」の「に」は完了の助動詞「ぬ」の連用形です。

「たりけり」も「にけり」も、「…たことだなあ」「…てしまったなあ」と、しみじみ感慨にふけるような感じを表わします。

つまり、06の一茶の句は、「真っ赤だった鶏頭の花も、(弁慶の立往生のように)立ったまま枯れてしまったことだなあ」のような句意になります。
07の蕪村の句は、「桜が散り、この寺も、木々の間にただ静かにたたずむ寺になってしまったことだなあ」のような句意になります。

以上、01~08の例句を見てきましたが、皆さんが特によく作ることになるのは、01~03のような「動詞の連用形+けり」の俳句と、07と08のような「動詞の連用形+に+けり」の俳句だと思われます。

歳時記の例句などをお手本に、必ず作り慣れるようにしてください。

俳句のどこに「けり」を置くべきか

「けり」は「や」と同様に、一句のどの位置に置くことも可能です。「かな」が原則的に一句の最後に置かれるのとは異なります。
以下、例句を鑑賞しながら確認してみましょう。

●上五の最後に「けり」を置いた俳句の例

09.霙みぞれけり人より貰もらふ銭の額
鈴木しづ子

●中七の最後に「けり」を置いた俳句の例

10.嶋々に灯をともしけり春の海
正岡子規

●下五の最後に「けり」を置いた俳句の例

11.壺の梅夜は黒髪の冷えにけり
鷲谷七菜子

このうち、09のような上五に「けり」を用いる作品は稀まれです。
最も多いのは11のような下五の最後に「けり」を用いる作品であり、10のような中七の最後に「けり」を置く作品もそれなりに見られます。

そこで次項では、下五の最後、あるいは中七の最後に「けり」を置く俳句の形の代表的なものを紹介していきます。

切字の「けり」を用いた俳句の形

句末の「けり」ではじめて句を切る形

「けりがつく」という慣用句を耳にしたことがあるでしょう。
これは、和歌などには、途中では切れずに、最後の「けり」でやっと切れる作品が多い、つまり、「けり」で決着するものが多いということに由来します。

俳句においても、切字「けり」の最も基本的な用い方は、下五の活用語の連用形に接続し、最後の最後にはじめて一句をサッと切るような用い方です。

次の12と13の例句は、いずれもその形をしていますので、鑑賞しながら確認していきましょう。

12.神田川祭の中を流れけり
久保田万太郎

13.よそに鳴る夜長の時計数へけり
杉田久女

前出の例句にもこの形の作品が多く、02、03、06、07、08が該当します。

上五の名詞で一旦切り、句末も「けり」で切る形

句末に「けり」を用いる俳句には、上五の名詞の後ろで一旦切り、切れの前の上五と、切れの後の中七・下五の十二字を取り合わせるような作品も多く見られます。
まずは例句を見てみましょう。

14.豆の花海にいろなき日なりけり
久保田万太郎

15.春の雷鯉は苔被きて老いにけり
芝不器男

この形の俳句を詠よむときは、上五と、中七・座五の十二字に意味上の関わりを持たせようとせず、関わり合いの無い二つの事物の取り合わせの妙を楽しむような作品に仕上げることが、佳句を生むコツです。

例えば、15の句においては、「春の雷」と「苔を被きた老鯉」という別々のものが、一つの文脈で結ばれることなく、一句の中で並存しています。

前出の例句では、01、04、11がこの形をしています。

中七の後ろを「けり」で切り、下五に名詞を据える形

切字の「けり」は、句末を切るように用いられることが圧倒的に多いのですが、中七の後ろを「けり」で切り、座五に名詞を据える形の作品も少なからず存在します。

この場合、上五・中七の十二字と、座五の名詞の取り合わせの妙を楽しみます。
いくつか例句を鑑賞してみましょう。

16.大の字に寝て見たりけり雲の峰
一茶

17.ひた急ぐ犬に会ひけり木の芽道
中村草田男

18.糸取りの祖母逝きにけり雪解雨ゆきげあめ
凡茶

この形の作品には、下五の名詞を上五に移しても、五七五の定型が崩れないものがあります。
例えば18の筆者の句は、次のように表現し直すことも可能です。

雪解雨糸取りの祖母逝きにけり

どちらの形を用いるかは作者次第です。何度も口に出して読み比べ、より聞き心地が良い方を、そして、より心に響く方を採用しましょう。

なお、前出の例句では、05と10がこの形をしています。

切字の「けり」を用いて得られる効果

「けり」は、それまで気付かずにいたことに「ハッ!」と気付いたときの感慨を表現するのに適しています。例を見てみます。

19.枯芦かれあしの日に日に折おれて流れけり
闌更
注)原句の「日に日に」は、くり返しの記号を用いて表記

この句は、「川辺の芦も日に日に枯れて折れていき、気がつけばずいぶんと川に流されてしまったものだなあ…」のような句意になります。

20.鳴き砂にたんぽぽの絮わた埋もれけり
凡茶

この句は、「歩くとキュッ、キュッとなる浜辺の鳴き砂に、どこからか飛んできたたんぽぽの絮が、埋もれてしまったなあ…」のような句意になります。

ここで、19と20は、いずれも俳句の作者が、自分の外側で起こった出来事を詠んだ作品となっています。

もし、作者の外側で起こった出来事ではなく、作者自身の行動を詠んだ俳句に「けり」がついている場合、その「けり」はどんな意味合いを持つ切字になるのでしょうか。

この場合、「けり」を「ハッ!」と気付いたときの感慨を表現していると捉えると、少し句を解釈しづらくなってしまいます。

そこで、作者が自分のとった行動、あるいは、今とっている行動を顧みて、感慨にふけっている様子を表現していると捉えてみましょう。例を見てみます。

21.葱ねぶか買こうて枯木の中を帰りけり
蕪村

22.木に登りヨットの恋を眺めけり
凡茶

いずれも、俳句の作者が己の行動を表現した作品ですが、21の名句は「買った葱を携えて、寒々とした枯れ木の中を、一人帰ってきたことだよ…」のような句意になります。

また22の拙句は、「沖で楽しそうにしている二隻のヨットを、僕は木の上から眺めているのだった…」のような句意になります。

***

次に、「けり」の生み出す余韻について述べます。

俳人は、「や」「かな」「けり」で俳句が切れると、その切れた部分に生じる独特の余韻を楽しみます。

ただ、この余韻は、「や・かな」と「けり」とでは、だいぶ異なっているように思えます。

私は、「や」または「かな」で俳句が切れると、その直後にジワーッと広がるような余韻を感じます。

一方で「けり」の直後には、スーッと消え入るような余韻を感じます。

俳句を鑑賞する際の、あるいは作る際の参考にしてください。

おわりに

ここまでお読みいただき、ありがとうございました。

筆者(凡茶)は、学生時代と教員時代を過ごした町から郷里に戻って以来、句会というものに参加していません。

著書やサイトの執筆活動は続けてきましたが、句会には参加できないまま、長い年月が経ってしまいました。

最近、また句会に参加したい、句友の力作に触れたり、自信作を評価されたり、駄作を発表して爆笑を買ったりしたい…
そんな思いを強く抱くようになっています。

出来るだけ近い将来、自ら俳句会を主宰できるよう、ゆっくりでいいから具体的に行動してみよう、このところそんなことを考えるようになっています。

最後に、学生時代に兼題句会で高く評価していただいた思い出の作品を一句。

絵手紙とおんなじ南瓜届きけり
凡茶

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