桜貝の時季と副題
時季 | 仲春・晩春 3月・4月 |
副題 | 紅貝・花貝 |
桜貝の解説と俳句での活かし方
小指の先ほどの大きさしかない、淡いピンク色の二枚貝。
貝類の多くは、産卵期の春に美味となるため春の季語とされるが、桜貝は、貝殻の色と形が桜の花びらに似るため、春季に分類される。
ゆえに当サイトでは、一部の桜が咲き始める仲春と、桜が盛りを迎える晩春を桜貝の時季とした。
貝細工の材としても好まれるその美しさは、多くの俳人の心をつかんできた。
ひく波の跡美しや桜貝
松本たかし
遠浅の水清ければ桜貝
上田五千石
星砂に浅く刺さりし桜貝
凡茶
可憐で、殻が薄くて脆そうで、色も薄い桜貝を、そうでない大きく力強いもの、硬そうなもの、色鮮やかのものなどと対比させる二物衝撃の名句も多い。
鯨寄る磯も春なり桜貝
成之
桜貝手に巻貝はポケットに
橋本美代子
空青すぎて桜貝こはれそう
黛まどか
もう一つ、近年唸らされた二物衝撃の句を。芸術性と社会性を兼ね備えた俳句。
広島に鳩沖縄に桜貝
西澤照雄
桜貝の儚げな姿は、読む者をどこかセンチメンタルな余韻に浸らせる作品を、俳人たちに詠ませる。
網走の色うすくとも桜貝
川崎展宏
おなじ波ふたたびは来ずさくら貝
木内怜子
桜貝ひとつ拾ひてひとつきり
三村純也
桜貝納めて贈るオルゴール
凡茶
季語随想
学生時代、あるひとの誕生日に、何か贈り物をしたいと考えました。
ただ、当時の私には、そのひとのために、気の利いたものを買ってあげるお金などありません。
そこで私は、自転車に乗って浜辺へ出かけ、最も美しいと思う桜貝の貝殻を拾うことにしました。
そして翌日、その貝殻を贈りました。
そのひとは、桜貝を受け取ると、私が思っていた以上に喜んでくれました。
大きな眼が潤んでいたことを、今でも覚えています。
……あれから長い年月が過ぎました。
私は今、海から遠く隔たった郷里に暮らしていますが、旅の途中で砂浜を歩く機会などに恵まれると、当時の感情が鮮やかによみがえってきます。
夕空に恵まれし旅桜貝
凡茶
おわりに
ここまで当記事をお読みいただき、ありがとうございました。
桜貝にもいろいろな種類があり、副題になっている紅貝などは、桜貝よりも濃い色をしているようです。
ただ、紅貝を詠んだ句はあまり見かけませんね。
さて、最後になりますが、下に並べた「春の季語・動物」「水中・水辺の動物の季語」などのタグをクリックすると、関連する季語を紹介するページが一覧で表示されます。
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