河鹿(かじか) 夏の季語・動物

河鹿(かじか)

河鹿(かじか)の時季と副題

時季三夏(初夏・仲夏・晩夏) 5月・6月・7月
副題河鹿蛙・河鹿笛・夕河鹿・河鹿宿・初河鹿

河鹿(かじか)の解説と俳句での活かし方

山地の渓流・湖など、水のきれいな所にむ小型で灰褐色の蛙。

繁殖期の雄が雌を慕ってヒュルリリリと鳴らす声が、雄鹿のそれと同様に澄んだ美しい音色であるため、河鹿の名が付けられた。

磨崖仏まがいぶつ河鹿鳴きつゝ暮れたまふ
水原秋桜子
磨崖仏:岩壁に彫られた石仏

いつの世にちし巨岩ぞ河鹿鳴く
杉浦冷石

この聞き心地の良い鳴き声は、しばしば河鹿笛と表現される。

瀬によればかえつて遠し河鹿笛
馬場移公子

河鹿笛聞き湯上りの内緒酒
凡茶

この季語は、夕河鹿、河鹿宿など、他の語と組み合わせて俳句に用いられることも多い。

どの石をわが椅子とせん夕河鹿
上田五千石

夕河鹿一人の旅は独り
瀧春一

夕河鹿閉門の音苔寺に
及川貞

吊橋をもて玄関や河鹿宿
山口青邨

古鏡磨き込まれし河鹿宿
渡辺恭子

なお、初河鹿は新緑の頃に初めて聞く河鹿の声であり、特に清々しい印象がある。

初河鹿きく耳澄んで来りけり
小浜史都女

の序列無き旅初河鹿
凡茶

ところで、秋の季語「鰍」も「カジカ」と発音するが、こちらは淡水魚で、両生類の「河鹿」とは全く異なる生き物。
鰍は金沢では「ごり」と呼ばれ、加賀料理の重要な食材となる。

季語随想

河鹿の雄が鳴らす妻恋つまごいの声は、様々な擬音語で表わされます。

●フィー、フィー
●ヒュルルルルル
●ヒョロヒョロ、ヒヒヒヒ
●ヒリヒリヒリヒリ

等々。

己の耳で河鹿の鳴き声をまだ聞いたことがなかった頃、私はこれらの擬音語から自分なりに河鹿の鳴き声を想像し、清流のイメージと重ねて心地よい気分になっていました。

そして、実際に河鹿の鳴き声を耳にした時、確かにその調べは澄んで美しく、私の想像を全く裏切らないものでした。

想像していたものと実際とが違ってがっかりすることは、人生よくありますが、河鹿の鳴き声に関しては、実際の声の方が、私の想像より清涼感のある素晴らしいものでした。

その時の河鹿笛を、あえて私なりの擬音語にしてみれば、次のような感じでしょうか。

●ヒュールリリリー、ヒュルリリリ、ヒョイヒョイヒョイヒョイ…

ただ、似ているとされる雄鹿のもの哀しい声とはかなり異なり、むしろ涼しげな蜩(ひぐらし)の声に近いと言う印象を受けました。

読者の皆さんのうちで、まだ実際に河鹿の声を聞いたことの無い方は、動画等で確認する前にあれこれ音を想像して楽しんでみてください。

想像の河鹿笛と、本物の河鹿笛とで、二回清々しい気分になりましょう。

おわりに

ここまで当記事をお読みいただき、ありがとうございました。

上に掲げた「河鹿笛聞き湯上りの内緒酒」は、20歳代の頃(だったかな?)に筆者がんだものです。

「内緒酒」という手製の熟語が効いていると、俳句の先生から褒めていただきました。

河鹿という季語も、朝河鹿、遠河鹿、河鹿峪など、他の語と組み合わて手製の熟語を創り出しやすい語ですが、語と語の縁を結ぶ仲人の役割をうまく果たせた時は、俳人冥利に尽きますね。

さて、最後になりますが、下に並べた「夏の季語・動物」「両生類の季語」などのタグをクリックすると、関連する季語を紹介するページが一覧で表示されます。
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