寄居虫(やどかり)の時季と副題
時季 | 仲春・晩春 3月・4月・5月初旬 |
副題 | がうな(ごうな) |
寄居虫(やどかり)解説と俳句での活かし方
寄居虫は巻貝の殻に棲みつく、エビ目ヤドカリ下目の小動物。
春に潮干狩りや磯遊びに出かけると見かけるため、春の季語に分類される。
ゆえに当サイトでは、潮干狩りや磯遊びが盛んに行われる仲春・晩春を、この季語の時季としてみた。
古くは「がうな(ごうな)」と呼ばれ、次の古句では「寄居虫」を「がうな(ごうな)」と読む。
それぞれにおのが世を経る寄居虫かな
茶舟
寄居虫の種類によっては、左右不揃いなでっかいハサミを、まるで自己主張でもしているかのように貝殻から出しており、その姿はなんともひょうきんである。したがって、寄居虫という季語からはユーモラスな俳句が生まれやすい。
やどかりの中をやどかり走り抜け
波多野爽波
やどかりの親子衝突してころぶ
阿波野青畝
寄居虫の手とおぼしきがさびしそう
池田澄子
やどかりや怪雲壊れただの雲
凡茶
子供たちも喜ぶユーモラスな存在であるがゆえに、縁日の屋台などで売り物にされることもある。
やどかりに色塗りて売る祭来ぬ
佐々木麦堂
世の隅に生きて死にたる寄居虫売り
中村苑子
ただ、己の棲み家を重たそうに引きずっているさまはどこか「あはれ」であり、寄居虫を詠んだ俳句には「あはれ」がにじみ出ている作品も多い。
寄居虫ゐて午後すこし減る忘れ潮
能村登四郎
忘れ潮:潮が引いてもそのまま残っている海水
引き戻しては寄居虫を歩まする
橋詰沙尋
寄居虫の殻ぬけしより失名す
大野せいあ
季語随想
得意でないことまで全部自分でやろうとして、うまくいかずにイライラする。
振り回される周りもイライラする。
そんな、俺達人間は、やどかりを見習うべきなのだ。
やどかりは、自分の棲み家を自分じゃ造らない。
全部、巻貝に作ってもらう。
だって、大工仕事は苦手だもの。
苦手なことは他者に委ねる。
そのかわり、得意なことは、他人の分だって心をこめてやってやる。
心に無理をためず、そして自尊心を傷つけない生き方だ。
無理せず生きているやどかりは、春の浜辺の人気者。
おわりに
ここまで当記事をお読みいただき、ありがとうございました。
実は、上にも掲げた拙句、
やどかりや怪雲壊れただの雲
凡茶
は、筆者にとっては初めて歳時記に掲載された作品の一つであり、とても愛着があります。
これからも歳時記に掲載されるような俳句を、どんどん詠んでいけたらなあ… と。
さて、最後になりますが、下に並べた「春の季語・動物」「4月の季語」などのタグをクリックすると、関連する季語を紹介するページが一覧で表示されます。
ぜひ、ご活用ください。