季語がネタ、定型がシャリなら、切字はサビ
以前に公開した 俳句とは何か(初心者向け) のページでは、「俳句とは、季語の入った五・七・五音の短い詩」であると述べましたが、季語と、五・七・五の定型のほかに、俳句にはもうひとつの欠かせない要素があります。
それは「切れ・切字」です。
俳句を江戸前の握り鮨に例えるとき、季語を鮨の主役となるネタ(魚)、それを受け止める定型を準主役のシャリ(酢飯)とするならば、切れ・切字は、主役・準主役を引き立たせ、鮨全体の味の印象を引きしめる名脇役のサビ(山葵)にあたる重要なパーツであると言えます。
当記事では、おもに初心者に向けて、切れ・切字とは何かを、説明していきたいと思います。
切れ
切れとは何か。まずは次の二句を見てください。
01.対岸の歩幅に合はせ青き踏み
02.春を待ち引き出しの石握りしめ
これらの句を散文(五・七・五のようなリズムを持たない普通の文)に書き換えてみると、次のようになります。
01.川の対岸を行く人と歩幅を合わせながら、春の青草を踏み、
02.引き出しの中にあった石を握りしめて、春を待ち、
読んでいただいた通り、これらの散文には、句読点のうちの読点「、」を打つをことはできましたが、句点「。」を打つことはできませんでした。
そこで、01と02の句を、次のような俳句に改めてみます。
03.対岸の歩幅に合はせ青き踏む
凡茶
04.春を待つ引き出しの石握りしめ
凡茶
こうすると、句を散文に書き換えたときに、下のように句点「。」を打つことができるようになります。
03.川の対岸を行く人と歩幅を合わせながら、春の青草を踏む。
04.引き出しの中にあった石を握りしめて、春を待つ。
このように、韻文(リズムを持つ文・詩)である俳句を散文に書き改めたときに句点「。」を打てる箇所、つまり、下の●を入れた箇所が、俳句における「切れ」の場所となります。
03.対岸の歩幅に合はせ青き踏む●
凡茶
04.春を待つ●引き出しの石握りしめ
凡茶
俳句を作る際、初学の方は、01や02のような「切れ」の見当たらない俳句を作らぬよう心がけてください。
歴史的な経緯は別のページで詳述する予定ですが、俳句が俳句として成立するには、切れている部分が必要なのです。
もちろん、切れの無い例外的な名句もありますが、初心者は「俳句は原則的には切るもの」と考えてください。
なお、ここでは、わかりやすさのために俳句という韻文をわざわざ散文に改める作業をしましたが、本来俳句は散文になおして味わうものではありません。
韻文のまま、その音を楽しむものですので、常に散文化して解釈するような癖はつけないようにしましょう。
切字
切字とは何か。
切字とは「切れ」の直前に置かれる単語のことです。
つまり、句中(句の途中)や句末に用いて表現を断ち切り、その直後に間や余韻を生み出す言葉、それが切字です。
まずは、句中に切字のある俳句を(拙句ですが)いくつか見てみましょう。
下記の俳句は、いずれも●の置かれた部分で切れています。
05.やどかりや●怪雲壊れただの雲
凡茶
06.尼寺の置きたるごみや●鶴渡る
凡茶
07.げんげ田に放ちて追へり●竹とんぼ
凡茶
08.糸取りの祖母逝きにけり●雪解雨
凡茶
09.母さんに刈られし頭●青田道
凡茶
上の例においては、05と06の切字は「や」、07の切字は「り」、08の切字は「けり」、09の切字は「頭」となります。
句中に切字がある場合、切字の直後に「間」が生まれ、その「間」が情趣を醸します。
次に、句末に切字のある俳句を見てみましょう。
10.豊年の星見て待てる始発かな●
凡茶
11.鳴き砂にたんぽぽの絮埋もれけり●
凡茶
12.ふらここの鎖に泥の乾きたり●
凡茶
ふらここ:ブランコのこと。春の季語
13.蟷螂の共食ひ鎌を食ひ残す●
凡茶
蟷螂:カマキリのこと。秋の季語
14.桜貝納めて贈るオルゴール●
凡茶
上の例においては、10の切字は「かな」、11の切字は「けり」、12の切字は「たり」、13の切字は「食ひ残す」、14の切字は「オルゴール」となります。
句末に切字がある場合、切字の直後に趣のある余韻が生まれます。
その余韻は、じんわりと広がる場合もあれば(「かな」など)、潔くサッと消え入る場合もあります(「けり」など)。
室町時代、連歌師の宗祇は、連歌の発句(俳句の先祖)に用いる切れ字として、かな、けり、もがな、し、ぞ、か、よ、せ、や、れ、つ、ぬ、へ、ず、いかに、じ、け、らんの18字を挙げました。
しかし、俳句の作者が「切ろう!」という意思を持って用いた語は、全て切字になり得ると私は考えています。
例えば、上に示した例のうち、「り」「頭」「たり」「食い残す」「オルゴール」の各語は、宗祇の挙げた18字の中には入っていませんが、例句の中では、切字としての役目をしっかりと果たしています。
松尾芭蕉はこのことに関して次のように言っています。
切字に用ひる時は、四十八時皆切字也。用ひざる時は、一字も切字なし
切字の代表格 や・かな・けり
上では、俳句の作者が「切ろう!」という意思を持って用いた語は、全て切字になり得ると述べました。
ただ、数多くある切字の中でも、や・かな・けり の三語は、詠嘆の意を特に強く表現でき、かつ、一句の調べを美しく整えることができる切字の代表格と言えます。
ですから初心者は、この三つの切字を意識して多用し、早めに扱いに慣れる必要があります。
別のページで や・かな・けり のそれぞれの語について、用い方などを詳しく述べていきます。
おわりに
ここまで当記事をお読みいただき、ありがとうございました。
冒頭で、俳句を江戸前の握り鮨に例えるならば、季語はネタ(魚)、定型はシャリ(酢飯)、切字はサビ(山葵)にあたると述べました。
が…、
近頃は、敢えてサビを忍ばせない鮨を売る回転寿司やスーパーが増えてきたように思います。
山葵の刺激を嫌がる子供などを慮ってのことだとは思うのですが、魚の生臭さを消し、そのうまみを引き立たせる山葵の長所に早く気づかせてやることも、大人の役目だと思うんですけどね。
なお、この記事は、かつて筆者(凡茶)が運営していた旧ブログ「俳句の作り方」に載せた記事を加筆修正し、再掲載したものです。
また、冒頭の「みかん」のイラストは、やはり筆者が過去に運営した旧ブログ「季語めぐり」のトップページに長らく掲げていたものです。
懐かしいと思ってくれた方は、古くからの読者さんですね。こうして再び私の文章を読んでいただけたこと、本当にうれしく思います。

